ラジハ 特別編
●造影剤アレルギー
遅発性アレルギーとは
だいたいのアレルギーは検査から5分以内に起こります。これは毎日検査している側としても、体感でもそう思います。
ひどいアレルギーはほぼ5分以内に起こるので、検査室に居てるため、しっかりした医療をすぐに受けることができます。
しかしながら、遅発性アレルギーは、24-48時間遅れて起こると言われ、家に帰ってから起こってしまいます!!
あっても、ほぼほぼ皮疹が出る程度ですが、
まれに、遅発性のアナフィラキシーというのもあり得ます。
今回の例ですが、かなり珍しいと思います。
(そもそも即時性アナフィラキシーすら珍しい)
もし帰ってからでも何かアレルギー症状が出ればすぐに『近くの』医療機関を受診ください。(検査を受けた病院じゃなくても、造影剤を使ったと言えばすぐどこでも伝わります)
とくに喉がイガイガする、咳が止まらない、声がかすれる、場合は急ぎます。
●肺塞栓症
肺動脈血栓塞栓症のことで、
脚の静脈でできた血栓という血の塊(血の流れが悪いことでできる)が下大静脈→右心房→右心室→肺動脈
へと流れて、詰まります。
肺動脈が詰まると、血液の酸素化の効率が悪くなり、
かつ、循環が止まるため、呼吸困難に加え、酷いとショックになります。
血栓がどれくらい詰まったか分類があり、肺動脈のモトが詰まると、すぐに処置しないとかなり厳しいですが、
なかなか診断が難しい。症状が非特異的。いちおう、予測するポイント制もありますが、優秀じゃないとポイントの数え方が変わって、そこまでは役に立たない。Wells criteria といいます。
基本的にはCT、しかも造影剤を使ったCTが必要です。
一枚のレントゲンで診断するのは至難の業です。
一応、Westermark's sign、knuckle sign、Hampton's humpサインなどありますが、日本ではCTがすぐ使えるので、もう読める人は僅かでしょう。
●聴神経腫瘍
だいたいは聴神経鞘腫という、聴力の神経の鞘からできた腫瘍です。
聴力の神経=聴神経
と、平衡感覚の神経=前庭神経
はともに8番の脳神経と呼ばれ、一緒に束になって走行しているので、どちらかが障害されるとどちらも障害されやすい。
7番の顔面神経=顔面の筋肉を動かす(他にも色々)神経も隣を走っているので、同時にやられやすいですね。
ちなみに内耳道というところを通ります。
聴神経鞘腫は孤発性(遺伝性ではない)もあると思いますが、両側にできてしまうNF2(神経線維腫症)が隠れている可能性があるので、全身の診察や、家族歴は確認したいところです。
他にも同じ部位にできた髄膜の腫瘍=髄膜腫なども鑑別にあがります。
どちらも手術できますが、神経を傷つける可能性があるため、症状なども併せて慎重に判断することが必要です。この腫瘍はいちおう良性なので。
大きくなって、内耳道から顔を出してくると、隣には脳幹があるので、ここを圧迫するようになると(生命維持装置なので)大変です。全然大きくならないものもあるように思います。
www.anausa.org
より引用。
ラジハ最終回
●低髄液圧症
脳は、脳脊髄液(CSF )という水に浮かんでいます。
豆腐みたいな組織なので、自重や衝撃に弱く、浮力と緩衝材が必要なんだと思います。
脳脊髄液は、脳を包んでいる髄膜に包まれた空間に存在し、この髄膜に穴があくと、髄液が漏れてしまう。これが低髄液圧症です。
・小脳扁桃下垂して、大後頭孔に嵌まり込む
・狭くなる脳槽がある
・髄圧と血液(静脈洞サイズ )、(と脳の体積 )がバランスをとる理論(Monro-Kellieの法則)によって、静脈圧が上がり、静脈洞が拡張
・下垂体が腫大
・髄膜が造影される
(水頭症ドレーンから髄液を抜きすぎたときの低髄液圧は、小脳扁桃が嵌まり込まない)
●術中は、マスクします。
●硬膜系を刺すのは麻酔科が得意。
ラジハ9話
緊急頭部CT
頭部CTでわかること
・出血→白く写る(ことが多い)
あんまりわずかだと、熟練でなければ見つけられないことがありますが、、、
出血のCT値はHt(ヘマトクリット値)という、血液の中の血球成分の割合を表す検査値と、正比例することが知られています。
血球の中にはもちろん赤血球があり、ヘモグロビンを含みます。ヘモグロビンには鉄が含まれ、白く写るというわけです。でも薄まればもちろんほぼ白くないくらいのグレーになってしまうので、指摘が難しいこともあります。
頭の中にはCSFという水があり、そこに脳が浮いています。水はCTでは黒めのグレーにうつるので、つまり、黒いはずのところが黒くない!ところに出血がある、と考えたほうがいいです。出血が白いと思っていては、見逃しのもとです。
・骨折
骨に線が入っているところを、くまなく探します。
ただ、人間は生まれてくるときに、頭蓋骨が くっついてないんですが、その名残で、縫合線という、つなぎ目があります。骨折と間違えないようにしないといけないですね。
外傷なら、この2つがとても大切でしょう。
他にも脳梗塞も発症から3時間程度以降なら見えます。転倒した原因になることがありますね。
力がかかって脳の神経が切れたりすることもあるので、MRIでないと見えません。DAI びまん性軸索損傷といいます。MRIでも撮影シークエンス(条件)を選んでやっと見えるものなので、どんな検査をするのか選ぶのはとても重要。
Bankart lesion
肩関節が脱臼するときにゴリッとこすって骨が折れるときにみられます。スポーツ整形外科的な疾患は経験がないと、なかなか難しい。
人間ドック
画像フルコースだと、
・頭MRI
・全身PET-CT
・上部、下部消化管内視鏡
ですかね~
PET-CTでは、糖が全身のどこに取り込まれるかを見るものなのですが、脳はもともとよく糖を消費しているので、PET-CTではきれいに写りません。ので、頭はやっぱりMRIですね。
CTは消化管の上皮にできた癌を検出するのが苦手です。胃や大腸の癌は頻度としてはかなり多いので、これはしっかり直接見て診断したほうがいいでしょう、ということで内視鏡は大事ですね。
これだけ検査すれば、悪性疾患はかなりスクリーニングされるでしょう。
スキルス胃がんもPETすれば見つかってたかも?とりあえずリンパ節転移してなければいいな~ってかんじですね。
胃透視はかなり減ってきていますね。できる放射線科医もかなり減っています。だって件数が減っていて経験が減っているのです。でもスキルス胃がんだけはやはり胃透視のほうが明らかにわかるかな~
でも検査中ぐるぐる身体まわされるので、なかなかしんどい検査です。。。検診がんばってください!
ラジハ8話 虫垂腫瘍
カンファレンス
技師さんと画像や症例についてカンファレンスすることはあんまりなさそうですけど、どうなんでしょう??勉強会はたまに一緒にやります^^
あと、病室はめったに行きません・・・ カテーテル術の前や後に診察や説明に行くことはありますが。。
bright tree appearance
痙攣重積の2相性脳症
けいれんが、数日後に再発して、その後に脳にダメージが残るというような病態ですね(カンタンに言い過ぎか)
けいれんというのは誤解があるかもしれないですね。けいれんというのは身体が動いてしまうタイプのものでしょうが、英語のseizureには、subclinical(臨床症状が出にくい)ものも含まれるので、脳波で判断したほうが良いかもしれません。
https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/AE2016GL/9ae2016_6aesd.pdf より引用
この図のように木のような(tree)特徴的な像を見ます。
虫垂腫瘍
虫垂というのは小腸と大腸のつなぎめである回盲部からミミズのように生えている細い腸管です。
なんらかの原因で感染症が起こり、虫垂炎(いわゆる盲腸)になるので、身近ですね。
でも、虫垂炎と思われて、手術した組織を顕微鏡で見てみると、たまに虫垂腫瘍が混じっています。
虫垂はふつう4mmくらいの幅ですが、8mm程度になると、腫大といって、虫垂炎の疑い、ということになります。
虫垂炎は本当に多いので、とりあえず虫垂炎として治療されることがありますね。
・虫垂炎は、炎とついているとおり、炎症が起こっているので、虫垂の周囲に炎症波及がみられます(dirty fat sign)。周囲の脂肪はCTでは黒い(グレー)ですが、炎症によって、好中球とか滲出液とかが脂肪内に介在することになるので、濃度が上がって、グレーになります(dirty fat sign)。MRIでは脂肪抑制T2強調像で高信号になります(拡散強調像のb=0画像が似ています)。
でも全員が虫垂の周囲まで炎症が波及するわけではないですし、初期ではわかりにくいこともあります。
虫垂炎の原因は、糞石という、腸の中の石(うんこが固まったもの?)が虫垂に詰まって起こることがあります。虫垂は細いですからね。小児はこれが原因のことが多いです。
破裂すると、腹腔内膿瘍を作り、死亡率もあがります。
鑑別疾患としては、
・虫垂腫瘍
虫垂には、たまに、腺腫や粘液癌が発生することがあります。粘液を産生する腫瘍なので、水っぽくなります。つまりT2強調像で高信号になります。虫垂腫瘍が破裂すると、粘液産生細胞が腹腔内に散らばり、いろんなところで粘液をつくる腫瘍が増えてしまい、全て摘出することが難しくなります。この状態を偽粘液腫といいます。なかなか治療に難渋します。
・回盲部憩室炎
虫垂と近い部分の大腸にある憩室(大腸の小さいでっぱり)で炎症が起こるものは見間違うことがあります。こちらは手術が要りません。
・虫垂憩室炎
虫垂にも憩室があることがあります。その憩室で、炎症が起きると、あたかも虫垂炎(虫垂に炎症があるのは間違いないが)のようです。
・虫垂憩室穿孔
虫垂炎穿孔(破裂すること)と間違われるのがこの疾患です。虫垂に炎症はないものの、憩室に穴が空いた場合ですね。
・腹膜垂炎
腸管からぶら下がっている腹膜垂という組織がねじれたり、っていうことで炎症になることがあります。
・大網梗塞
大網は胃の前にタレている脂肪のネットみたいなものですが、けっこう下までタレ下がることがあり、右下腹部痛になることがありますね。大網の動脈を追っていき、大網を同定することで、診断に至ることができます。
研修医制度
けいれんにはジアゼパム、酸素・・・・と全医学生が知っていますが、急なときにハキハキ指示するのは、慣れていないと意外と難しいですよね。
かぶらぎ部長は、おそらく、医学部卒業後、研修医制度がなかったためすぐに放射線科で研修を開始していると思うので、もしかしたらジアゼパムを注射した経験ないかもしれないですね?
ラジハ7話の違和感
鈴木くんカッコよかったし ドラマ楽しく観ているんですが、
毎話ちょこちょこ違和感はあるんですが(前もアンギオで造影時にアンギオ室から外に出てなくて被曝してるの違和感)、
7話については放射線科医の中でも特に反響がありました。
マンモグラフィ(X線)で乳がんが疑われ、超音波検査待ちが2ヶ月もあり、友人に頼んで、再検査してもらうという回です。
●エコー2ヶ月待つ!?
どの病院もそんなに待ちますか??
●声が大きい人の希望を聞いてしまう
友達だからとか、不安が強いからとか、劇中でもありましたが、みんな不安です。
●毎度ですが、夜中に撮影する
夜中に特別に検査するなら、どうせならもうエコーしてしまえばいいのでは?という気も…
こっそりマンモトーム生検とかしなくて本当に良かった…
●良性いいきる、実際初めて見たんちゃうの?
良性病変というのは、基本的に病理学的・放射線学的な知見が乏しく、しかも稀な良性病変は尚更。
1つのモダリティ(検査方法)のみで、良性を言い切るのは、一般的に本当に危ないと思います。
しかも初めて経験したとは、これは如何に!?
乳がんというセンシティブな話題でここまで攻めてしまって、アウトロー感満載ですが、誤解が流布されないように、とだけ心配の吐露でした。
ラジハ7話 「悪性の疑い。/ ○○の疑い。」
白衣
放射線科医は白衣あんまり着なくても仕事できちゃいますね。
読影室にいるときは患者さんに直接会わないので、白衣を着る必要がないので、楽な格好をして働いています。
医師の中でも白衣を着なくていい仕事は珍しいですね。といっても診察や検査のときはもちろん白衣着ていますよ^^
https://www.clasic.jp/?utm_source=google&utm_medium=cpc&utm_content=980&utm_campaign=shimei
こんな白衣着たことない・・・
というか白衣の下、なに着てるんですか?
「悪性の疑い。/ ○○の疑い。」
一般用語にみえて、これは医療用語ですよね。
ちなみに放射線科医が、技師さんに、「悪性かどうか」を聞くことはほぼないと思います。私は見たことありません。
放射線科医が技師さんに質問したり頼ったりする場合は、アーチファクト(撮影のしかたによって写ってしまった画像)のことを聞くことがいちばん多いんじゃないでしょうか。やはり技師のほうが、機械(CTやMRI)のパラメータ(撮り方の具合とでもいいますか)に詳しいため、機械ごとの癖がわかってますし、めっちゃ頼りになります。
でも悪性かどうか、みたいな質的診断はふつう聞きませんし、技師さんもあんまり興味ある人すくない気がします(これは私見です)。私のイメージでは、技師さんは存在診断のほうが好きなイメージ。
~の疑い
といっても、どれくらい疑ってるの?
私がよく使う文言は、
・~の像です。
・~と考えます。
・~を第一に/積極的に疑います。
・~と思われます。
・~を疑います。
・~の可能性があります。
・~を除外してください。
・~を否定できません。
くらいですかね。ニュアンスを変えているつもりですが、伝わってるかは、難しいでしょうね。
一応、「~の疑い」は50%以上、しかもまあまあそうだとおもう、というときに書こうかなと思ってはいるんですが、正直、画像診断で、50%以上の確率でそう言える!という所見は意外と少ないというか。
画像には非特異的な所見(なんでもない、というか何かわからないというか)が多いので、これだ!!!と言えるような所見は少ないです。
特に教科書に載っているようなキレイな画像所見なんて、意外とないんです。
本題ですが、
~の疑い
だけで、どれだけ不安になるか・・・
主治医の先生も不安になっていることかと思います。
放射線科医と主治医のコミュニケーションが必要なんです。もっと、どういう意味の、「~疑い」なのかということ。
そのためにカンファレンスを行っています。
ラジハ6話 IVRなど
医師法17条
医師でなければ医業を行ってはならない
と書かれています。すべての他の医療系の職業は、上の法律の例外として、という立ち位置なのです。いうて形だけね。
この法律が医師を特別な存在にしている反面、医師の首も締めています。医師がいないと医療行為ができないので、みんな働かないといけない。
最近では診療の手伝い、というかほぼ診療行為をしている看護師さんもいますね。
正直助かります。
IVR(interventional radiology、インターベンション、画像下治療)
放射線科医だけでなく、むしろ、循環器内科や脳外科のイメージでしょうか?
IVRは
・vascular(血管系)
・non-vascular(それ以外)
に大別されます。
vascularの中で、
・循環器内科は冠動脈(心臓を栄養する動脈)
・脳外科は脳動脈
を主に専門分野としています。
では、放射線科はどの分野かというと・・、
・心臓と脳以外の血管
を担当しています。いちばん多いのは腹部の血管で、肝細胞癌(肝臓癌)のカテーテル治療がいちばん多い手技でした。「でした」と書きましたが、まだ多いのかな?そろそろ少なくなってきます。肝臓癌の原因となる肝炎ウイルスの新規感染が減り、また治療法がよくなっているため、肝臓癌自体が減っています。ちなみにTACE(肝動脈化学塞栓療法)というカテーテル治療です。
他にも
・non-vascularでは、膿瘍ドレナージや画像ガイドでの生検、他にも腎細胞癌の凍結治療(冷やしてやっつける)など様々です。
画像ガイドのもとで行うもので、
X線、CT、MRIなどがありますが、MRIは金属が使えないためあんまり用いません。
なんにせよ、かなり専門性が高いため、カテーテル手術をしている隣で、専門でない医師が見ていても、いまなにをしているのかも分からない人もいる・・・そんな治療です。
「いまどのへんですか?」ってよく聞かれます(笑)
IVRの良い点、悪い点
・良い点は、低侵襲(ダメージが少ない)であることです。
身体を切り開かずに、針を刺す程度の傷で行うため、痛みも少ないです。
だいたい全身麻酔は必要ないです。
身体の中を見通す画像検査を行って、その画面を見ながら、針やワイヤーやカテーテル(ストローのようなもの)を用いて治療していきます。
お腹の中で出血した場合、開腹してもどこから血が出ているのか分からないこともあります。そのためにCTで出血点を同定するわけですが。
IVRのほうが早く出血点にたどり着けることもあれば、
今回のような脾臓の損傷で、摘出するとなれば、緊急手術のほうが早いかもしれません。出血のレベルによっては早さがいちばん大切ですからね。
ただ、子供の脾臓は摘出しなくて済むなら摘出したくありませんね。脾臓は免疫に関わっていますので。
・困った点は、
X線やCTでは被曝するという点です。術者である医師やサポートする技師も被曝してしまいます。しかもまあまあ時間がかかるので、なかなかに被曝環境に居ることになります。しかしながら、しっかり気をつけていれば、かなり少ない被曝量で済みます。術者は鉛のガラスで被曝を防ぎながら、鉛のメガネをして、鉛のジャケットを着ます。
造影剤を使用する。
血管系のIVRでは造影剤の使用は必須と言っていいでしょう。
なんでかって?
X線を用いても、人間の身体の中の構造は見えないんです!!
血管がどこにあるかなんでわかりません。
そこで、血管の中に造影剤を流して、造影剤を見る!ことで、血管の形を写し出します。でも一瞬で造影剤は流れ去るので、全体像の把握は困難なこともあり、術前にCTなどの画像から、血管の形を把握しておくことが重要です。
血管の形はほんとうに人それぞれで、「え!?なんでそこからその血管生えてるの!?」なんてこともあります。
なので前もって血管の地図を、その人それぞれに合わせて覚えて臨んでいます。
こんなかんじで、書いて覚えていることもあります。
カテーテルの種類
ドラマで、「コブラ?」「シェファードフックよ」みたいな会話がありましたが、
ストローのようなものであるカテーテルの先端の形には様々な種類があります。血管は人によって色んな形をしているので、そのためにカテーテルもいろいろな形のものが用意されています。
血管の形を把握して、形にあうカテーテルを選択するには経験が必要です。
汚いですけど(笑)
左から RC1 シェファードフック コブラ
などあります。